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本の紹介「思い出の昭南博物館」

「思い出の昭南博物館 占領下シンガポールと徳川侯」E・J・H・コーナー著、中公新書、1982年8月、ISBN4-12-100659-3、437円+税


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【瀧端真理子 20030804】
●「思い出の昭南博物館」E・J・H・コーナー著、中公新書

 1929〜1945年まで、シンガポール植物園に奉職し、日本占領下にラッフルズ博物館・附属図書館とシンガポール植物園を守り抜いた植物学者コーナーの原著を、彼のために翻訳と資料提供につとめた石井が日本語版として編訳したもの。前半は、田中館秀三、後半は徳川義親らとともに敵味方を越え、博物館・図書館と図書を含む膨大な資料を守りぬくさまが淡々と描かれている。
 「物を収集し、整理して保存または展示することは博物館の大切な仕事であるが、それより重要なことは、研究をすること、その業績を発表して後世に残すことである」と記すコーナーは、占領下に古賀忠道、田中、徳川らの協力を得て、2冊の研究書の出版・保存にも奔走した。
 戦争と侵略にともない掠奪・逆掠奪がごく自然に日常化するさま、猫、犬、人間の死骸・糞で汚れた海で昭和天皇に献上する標本を集めるシーン、占領末期にバラックの中で死んでいく徴用人夫。疫病予防のためにコーナーらが死体の数を数えていく場面など、控えめな記述がかえって印象に残る。華僑大量虐殺を生き延び、博物館職員を財政的に支援し続けた華僑クーリーのタウケイ。現地の視点も含め、多面的にこの博物館にまつわる人々のことを知りたくなる本である。
 
 お薦め度:★★★★  対象:博物館に関わるすべての人

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