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本の紹介「日本の山はなぜ美しい」

「日本の山はなぜ美しい 山の自然学への招待」小泉武栄著、古今書院、1993年8月、ISBN4-7722-1330-9、2600円+税


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【六車恭子 20071222】【公開用】
●「日本の山はなぜ美しい」小泉武栄著、古今書院

 「山の景色」を学問する、前代未踏の領域に挑戦した学徒の四半世紀におよぶ研究の成果に裏打ちされた、山への招待状である。
 そしてこの本のタイトルは世界の山々を行脚してなおかつ彼が私たちへ送る熱いメッセージなのである。日本の山の魅力は森林限界を越えたとたん視界が開け、多彩な景観が展開するところにある。さまざまな植物群落、残雪、砂礫地、岸壁と崖錐、湖と水の流れ。この「山の景色」、すなわち高山帯の自然景観をつぶさに地質学的に解き明かした経緯が、彼の修論、博士論文に結晶したようだ。彼のフィールドの白馬岳や木曾駒ヶ岳をかって一夏の登山者として通過した経験が、この本に親愛度を深めたのかもしれない。一つの学問の領域を超えてそこを愛する学問のありようを胸に届けてくれる希有の本である。

 お薦め度:★★★★  対象:山登りを趣味にしている人、山の風景に魅了されたことのある人

【瀧端真理子 20071007】
●「日本の山はなぜ美しい」小泉武栄著、古今書院

 ごく狭い範囲内に、さまざまな植物群落や微地形、残雪などがモザイク状の複雑なパターンをつくって分布する、日本の高山帯の美しい自然景観がなぜ生じるかを、地質、地形、植生、それに斜面の時代性を加えて説明した本。同時に、東大地理学教室という特殊な環境の中で、著者が博士論文を提出するまでの長い大変な道のりが描き出されている。
 実際に山を歩くことでテーマや方法を学んだり、発見していく様子がいきいきと伝わってくる。例えば、トアや崖錐上部の基盤の露出部にペンキを塗り、一定期間後にペンキの剥げ落ちた部分の割合を調べ、落下した礫を集めて、岩屑がどれだけ剥離したかを調べる方法。風化皮膜の厚さから、岩屑が形成された年代を推定するためのスタンダードづくりなど。
 誰もやらなかったスケールの大きな研究の進展を、周囲のリアクションを交えつつユーモラスに語るところが面白い。最後には、細分化されがちな学問への苦言や、日本の自然破壊に対する批判も盛り込まれ、バランスのよい普及書になっている。

 お薦め度:★★★★  対象:山の地形や高山植物、または研究の進め方に興味のある人

【中条武司 20080625】
●「日本の山はなぜ美しい」小泉武栄著、古今書院

 何気なく見ている風景。それがなぜどのように成り立っているかは、当たり前のものとして普段から目にしているものなので、なかなか「なぜ?」というふうには結びつかないようである。しかし、著者は日本の高山の「風景」の魅力にとりつかれる。本書は著者が、日本の高山の風景すべてを理解しようと、植生の違い、岩砕の量、地質、気候、地形発達など様々な面からアプローチする、その研究記録を追ったものである。研究の様子や苦労・苦悩がいきいきと描かれ、山に登って風景をゆっくり見ようかなという気にさせる本である。

 お薦め度:★★★  対象:日本の山を美しいと感じる人

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