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本の紹介「謎のカラスを追う」

「謎のカラスを追う 頭骨とDNAが語る枯らす10万年史」中村純夫著、築地書館、2018年12月、ISBN978-4-8067-1572-6、2400円+税

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【和田岳 20190221】【公開用】
●「謎のカラスを追う」中村純夫著、築地書館

 高校の先生をしながらカラスの研究もしてきた著者が、退職を機に、ロシアのカラスを調べに行く。
 前半では、ハシブトガラスの2亜種、マンジュリカスとジャポネンシスの分布の境界がサハリンにあるんじゃないかと調査に向かう。後半では、今度は沿海州に調査へ。運転手and/orハンターを雇って、とにかくカラスを打ちまくっては、頭骨標本とDNAサンプルを確保する毎日。カラスがいるからと、サハリンではもっぱらゴミ捨て場巡り状態。
 読みどころは、大学などの後ろ盾なく海外で調査する苦労とか、見知らぬ国でのとまどいとか。細かく日記を付けていたんだろうか、毎日のことが事細かに記述される。カラス類以外の鳥がほとんど出てこないのが、バードウォッチャーとしては不満。

 お薦め度:★★  対象:将来ロシアに調査に行ってみようと思う人
【萩野哲 20190209】
●「謎のカラスを追う」中村純夫著、築地書館

 “インデペンデント”の鳥類学者である著者が、極東に生息するハシブトガラスの2亜種の分布の境界を探す旅の話。著者自らが樺太やその大陸側に標本を採集旅行する部分が、この本の全6章のうち最初の4章を占める。著者の言では「ワタリガラスの謎」のハインリッチ風にしたらしいが、カラス関連や旅行上必要不可欠な話にとどまらず、いささか冗長に感じられた。著者が頭骨の形態を、ロシアの学者がDNA解析を担当したのだが、第5章でやっと頭骨の解析結果が示される。ここで、形態上、頭と嘴のサイズのみならず頭骨小変異が重要であることと係数倍の応用に気付く経緯が語られ、樺太やその大陸側に生息する亜種はマンジュリカスとの結論が得られた。しかしこれで一件落着せず、第6章では形態とDNAの解析結果の不一致についての悩みと、その解決が示される。同じものを研究しながら、人(研究手法または専門分野)によって異なる結論が出るのを群盲象評図に例えている(ここに限らず、著者は例え話が大好きである)。頭骨の形態とDNA解析の両方のアプローチから、ハシブトガラスの10万年史が見えてきた。

 お薦め度:★★★  対象:謎解きが大好きな人
【森住奈穂 20190222】
●「謎のカラスを追う」中村純夫著、築地書館

 副題は「頭骨とDNAが語るカラス10万年史」。ハシブトガラスの分布域北辺には2つの亜種(ジャポネンシスとマンジュリカス)が生息している。この2亜種の交雑帯を確認すべく樺太北部へ向かった著者。組織に属さない「インデペンデント」研究者であるが故、費用はもちろん様々な調整はすべて自分で段取り。採集したカラスの頭骨を持ち出すために出入国審査をくぐり抜ける話は、書いていいの?と気になるけれど。ロシア人の相棒と共に野営とホームステイで巡るロシア極東。巻頭の口絵写真から、普通の旅行では味わえないような景色や文化体験の様子が伝わってくる。日記形式で書かれており、調査に関することのみならず様々な雑感が行間を埋めているため旅行記のようでもある。幾度も壁にぶつかりながら並行して共同研究者がDNA調査を進め、いざ明かされる真実とは?

 お薦め度:★★★  対象:インデペンデント研究者の心意気
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