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本の紹介「モンフォ一コンの鼠」

「モンフォ一コンの鼠」鹿島茂著、文藝春秋、2014年5月、ISBN978-4-16-390068-1、2000円+税


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【六車恭子 20211022】
●「モンフォ一コンの鼠」鹿島茂著、文藝春秋

 19世紀前半のパリ、雨が降ればそこは泥の海となり、人々は馬車を必要としていた。
 モンフォ一コンの廃馬処理場では毎日30〜40頭の馬が生きたまま死骸となり、年間一万頭前後、皮を剥がれ、骨は黒色顔料となり、貯水池にためられた人間の屎尿は茶色の畑にまかれる。モンフォ一コンの廃馬は鼠という≪荒ぶる神≫に捧げられた生け贄ともいえる。悪臭漂うこの地からアムロ下水を通ってセ一ヌ川に流れる。この19世紀にキクという日本娘が見事な手さばきで解体する姿があった!この時、サンシモン教会が二つに分裂した時期でもあったのだ。キクは娼婦であり、身ごもっていた!しかし血まみれで立ち働く姿はひとつの顕現であった!神性を帯びた人間に特有の後光に包まれた女人が暗闇から姿を現したように!
 モンフォ一コンが機能しなくなったらパリという肉体は機能不全に陥らない、マルヴィナから手紙が届く。彼女はパリ社交界の女王として君臨する貴族。
 バルザックは彼女の邸宅の図書室から地下に張り巡らされた迷路を冒険するはめになる。バルザックはマルヴィナの奸計に見事にはまったのだ。パリの地下は穴だらけ、同時にモンフォ一コン!、パリの地下は同時に右岸、田園地帯…。
 バルザックは婦人の招待状から始まった謎かけはカリエ一ルの地下に地上とまったく同じものを再現してこの地球全体が目に見えない何かで覆われているのだと悟らせるために?婦人からの今回の地下を巡る冒険は「天に書かれたひとつの書物の通りに動くほかはないのよ。」
 「デヴォラン組」のいまだ書かれざる第四巻、一人の人間が過去のすべて人間の運命を、あらかじめ負わされた運命としてひきうけねばならない!のだろう。カストリ公爵夫人がバルザックに仕掛けた罠への挑戦をこうして果たしたのだろうか。職業作家バルザックの面目躍如たる快作!

 お薦め度:★★★★  対象:19世紀に興味のあるかた
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