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本の紹介「メアリー・アニングの冒険」

「メアリー・アニングの冒険 恐竜学をひらいた女化石屋」吉川惣司・矢島道子著、朝日選書、2003年11月、ISBN4-02-259839-5、1400円+税


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【西澤真樹子 20060826】【公開用】
●「メアリー・アニングの冒険」吉川惣司・矢島道子著、朝日選書

 ひとりの少女が恐竜の化石を見上げて立っている。化石の下にかけられた小さな肖像画は、18世紀イギリスの化石屋、メアリー・アニングのものだ。いまでは誰でも知っているプレシオサウルスやイクチオサウルスを発見し、自ら発掘して世に送りだし、創成期のイギリス博物学界を驚嘆させた。幼くして父をなくした彼女は、アンモナイトやサメの歯の化石といった「お宝」を観光客に売ることで家族の暮らしを支えた。この「貧しい少女」「化石発見の天才」といった一面ばかりが取り上げられ、本格的な伝記は実は本書が初という。筆者は現地に赴き、手紙や領収書、メモといった史料を丹念に調べあげ、道徳的なエピソードで描かれてきたメアリー像を修正していく。
 上質で価値の高い化石をつぎつぎと発掘し、豊富な経験と知識を駆使した巧みな「営業」で多くの標本を博物館に売り込み、古生物学会に多大な貢献をしたにもかかわらず、貧しい階級のメアリーは表舞台で名誉を得ることはなかった。しかし、彼女の化石で論文を書いた多くの「お偉方」研究者よりも、生活の糧として化石とともに生きたメアリーこそが、猟師や農民のようなすぐれた自然の観察者であったことが生き生きと伝わってくる。

 お薦め度:★★★★  対象:自然科学に心ひかれるすべての人、とくに女の子に

【中条武司 20051214】
●「メアリー・アニングの冒険」吉川惣司・矢島道子著、朝日選書

 “もの”を発見・採集する人と、それを世間に公表する人の関係は今も昔も微妙な関係だろう。“もの”を採集し、それ売ることを生業とするなら、専門の知識や技術に長けていなければならないが、“学識者”にはいつまでたってもなれない。この本は、専門の知識を身につけるにつれそのギャップに葛藤する“化石婦人”メアリー・アニングの生涯を、限られた資料の中から紡ぎ出す。地質学創生期の多くの“学識者”の研究が彼女の販売する標本に因っていたこと、プロとしてのプライドと家族の生活のために次々と化石を発掘する彼女の生きざまが紹介される。
 200年前の歴史上の人物といってよいメアリーだが、彼女の複雑な葛藤にまみれた生涯は、現在の私たちにも響くものがある。

 お薦め度:★★★  対象:博物学・科学史に興味のある人

【西澤真樹子 20060623】
●「メアリー・アニングの冒険」吉川惣司・矢島道子著、朝日選書

 ひとりの少女が恐竜の化石を見上げて立っている。化石の下にかけられた小さな肖像画は、18世紀イギリスの化石屋、メアリー・アニングのものだ。いまでは誰でも知っているプレシオサウルスやイクチオサウルスを発見し、自ら発掘して世に送りだし、創成期のイギリス博物学界を驚嘆させた。幼くして父をなくした彼女は、アンモナイトやサメの歯の化石といった「お宝」を観光客に売ることで家族の暮らしを支えた。この「貧しい少女」「化石発見の天才」といった一面ばかりが取り上げられ、本格的な伝記は実は本書が初という。筆者は現地に赴き、手紙や領収書、メモといった史料を丹念に調べあげ、道徳的なエピソードで描かれてきたメアリー像を修正していく。
 上質で価値の高い化石をつぎつぎと発掘し、豊富な経験と知識を駆使した巧みな「営業」で多くの標本を博物館に売り込み、古生物学会に多大な貢献をしたにもかかわらず、貧しい階級のメアリーは表舞台で名誉を得ることはなかった。しかし、彼女の化石で論文を書いた多くの「お偉方」研究者よりも、生活の糧として化石とともに生きたメアリーこそが、猟師や農民のようなすぐれた自然の観察者であったことが生き生きと伝わってくる。
 彼女の生きたライム・リージスは化石の名産地として有名になり、研究者や発掘屋たちがつぎつぎに押し寄せた。ブームにのったミーハー発掘屋がメアリーのフィールドを訪れ、発掘した標本の欠けた部分を見てくれよく修復しようとする。彼女は「そのままのほうが本当でずっと美しいのに」と怒り、批判するエピソードが印象的。

 お薦め度:★★★★  対象:自然科学に心ひかれるすべての人、とくに女の子に

【六車恭子 20051215】
●「メアリー・アニングの冒険」吉川惣司・矢島道子著、朝日選書

 ものごとの初めにその人あり、そんな大発掘時代の黎明を告げる人こそ、メアリー・アニングだったようです。今なら一躍時の人として脚光を浴びていたことだろうに。200年前のメアリーの時代は彼女の業績を讃えるほどには成熟してはいなかった!1820年代、絶好の時代、絶好の場所に居合わせた彼女の才能に敬意を著したのがイクチオサウルスだったのかもしれません。昼間に数時間出現するライム・リージスの海岸はメアリーに開かれた劇場だった。後に発掘化石から地球創世の壮大な歴史を明らかにするのはサーの称号を持つ紳士たちの役割だったのだ。
 タイトルの冒険はむしろメアリー・アニングの実像に迫ろうとする著者たちの熱意に献上した方がよさそうです。

 お薦め度:★★★  対象:発掘現場の忍耐を乗り越えてわくわくを体験したい人

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