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本の紹介「LIFE CHANGING」

「LIFE CHANGING ヒトが生命進化を加速する」ヘレン・ピルチャー著、化学同人、2021年8月、ISBN978-4-7598-2073-7、2600円+税


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【和田岳 20221019】【公開用】
●「LIFE CHANGING」ヘレン・ピルチャー著、化学同人

 今やヒトは、意図的に、あるいは意図せずに、多くの生物に影響を与え、遺伝的な変化をもたらしている。つまりヒトは、地球の生命の進化に大きく影響するようになっている。その状況がさまざまに描かれる。
 最初は、ヒトが意図的に生命を改変した例。家畜化からはじまり、人工授精、遺伝子組換え。ヒトの技術はどんどん進み、自然を大きく改変することが可能になっている。キツネの家畜化、さまざまな改変動物が猟獣保護区、薬剤成分を含んだ卵を産むニワトリ、乳からクモの糸がとれるヤギ。最後の方は、まるでSF。
 続いて、ヒトが意図せずに生命の進化に影響を与えた例。ヒトの移動や気候変動によって生じる種間交雑。ヒトがつくった環境、ヒトの行動によってもたらされる進化。ホッキョクグマとヒグマが交雑したピズリーはどうなっていくのだろう?
 最後は、生物多様性を守り、復活させるための活動。人為淘汰でサンゴ礁を維持・復活させる試み。繁殖を完全に管理されて復活しつつあるカカポ。最後は、ヒトが介入して、環境を改変して生物多様性を高めようという試み。
 とても興味深いテーマだが、人間が人工的につくったDNAを組み込んだ生物を放ち、野外に広めることに好意的。外来生物問題をあまり理解していない。影響予測もなくデンマークにゾウを放すことを支持している様子。科学技術や人間を不用意に信頼しすぎていて、慎重さに欠けると思う。

 お薦め度:★★  対象:外来生物問題について充分な知識のある人のみ
【西本由佳 20220220】
●「LIFE CHANGING」ヘレン・ピルチャー著、化学同人

 ヒトによって進化をコントロールされる生物についての本。前半は、自然観察を好む人にはあまりなじみがないかもしれない。遺伝子組み換えやクローン等によって、ヒトの都合に合わせて改変や複製される家畜やヌー、魚、鳥、まっとうに生きることのできないニワトリなど。不妊化された肉食のハエを放ってウシやヒトの被害を減らす話は、ヒトとしてはすごい対策だとは思うけれど、生態系としてどうなのか、少し戸惑う。後半はヒトが野生生物の保全のために何ができるかという話。サンゴに温暖化耐性をつけたり、カカポの生息環境と繁殖の管理をしたリ、いろんな生きものを野に放って彼らに小さな環境改変をさせるに任せて自然を豊かにしようという試み。ヒトが変えてしまった環境で危機にある生きものをヒトの介入によって生かそうとする。どこまでが妥当でどこからが妥当でないのか、考えさせられた。

 お薦め度:★★★  対象:自然についてのいろいろな考え方を知りたい人に
【萩野哲 20220131】
●「LIFE CHANGING」ヘレン・ピルチャー著、化学同人

 パウル・クルッツェンは、それまでの自然の力ではなく、ヒトの影響下に支配されるようになった産業革命以後の200年を人新世(Anthropocene)と呼ぶことを提案した。世界のメガファウナが消えゆく中、別の動物の一群(=家畜たち)は栄華を極めている。現在地球上に、ニワトリ220億羽、ウシ14億頭、ヒツジ12億頭、ヤギとブタはそれぞれ10億頭いる。家畜化しやすい遺伝的素養を持ったこれらの動物は、当初ヒトによる好みや効率化などの目的で、選抜育種など時間を要する技術によって改変されてきたが、次第にヒトの技術は向上し、クローン生産や、正確に遺伝子の指示を書き換えることができるゲノム編集技術も確立されるに至った。これらをどこまで“生命進化”と呼んでよいのか疑問もあるが、今ではこれらの技術は成長速度や餌料効率を向上させる目的の畜産や水産以外にも、例えば、優良個体の複製、クモの糸の生産や希少生物の保全などにも応用されている。もちろん、これらの技術にはよい面ばかりでなく、倫理的な問題や、更には悪用が心配な面もあり、諸刃の剣となっているのだが。

 お薦め度:★★★  対象:ヒトがどれだけ生命の改変に手を貸しているのか考えたい人
【森住奈穂 20220224】
●「LIFE CHANGING」ヘレン・ピルチャー著、化学同人

 「人新世」最近よく聞くこの言葉は、地質時代区分として認められるほど人類活動が地球環境に影響を及ぼしていることを現している。本書が取り上げるのは、その活動のなかでも人類が他の生物種に対して行った、あるいは行おうとしている遺伝子操作や改変について。なかでも工業的畜産を描く第6章は衝撃的。1万年前、世界の陸生哺乳類の99.9%を占めた野生動物はいまや4%にすぎず、96%は家畜とヒト。ヒトが食べられる100キロカロリーの穀物を家畜に与えて、得られる肉のカロリーはたった3キロカロリー。国連は現在の農業慣行を改めなければ、世界の耕作可能な土壌は60年で消滅すると警告。知らんかったがな! 数百万年後、人新世を象徴する環境指標として選ばれる(かもしれない)のが鳥インフルエンザによって大量に処分された養鶏場のニワトリ化石とは、皮肉が効いている。不都合な真実がここにも。

 お薦め度:★★★★  対象:LIFE CHANGINGしよう!現代人。
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