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本の紹介「協力と罰の生物学」

「協力と罰の生物学」大槻久著、岩波科学ライブラリー、2014年5月、ISBN978-4-00-029626-7、1200円+税


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【和田岳 20150227】【公開用】
●「協力と罰の生物学」大槻久著、岩波科学ライブラリー

 自然界には、さまざまな協力関係が見られます。バイオフィルム、変形菌、アリの真社会性、鳥の共同繁殖、ミーアキャットの警戒声、チンパンジーの道具の貸し借り、根粒細菌・菌根、クマノミとイソギンチャク、掃除魚etc。そうした協力関係の進化のメカニズムとして、血縁選択、直接互恵性(もちつもたれつ)、間接互恵性(情けは人のためならず)の3つの理論がある。しかし、協力関係には、つねにフリーライダーの出現が問題となる。フリーライダーを見つけ報復を行うという行動も自然界に広く存在する。
 その上で、最後は人間の協力と罰の話。利他的罰に非社会的罰。謎はあるけど人間は罰を与えるのが好きなんだということだけは、納得してしまった。最後では、協力関係を維持する仕組みとして、罰と報酬を比較する。ここにきて実際の我々の社会について考えさせられる。犯罪を罰で抑制するのではなく、報酬によってさらによい社会ができる可能性が開けないものか。SF的な社会を想像てみるのも楽しい。

 お薦め度:★★★  対象:ゲーム理論を少しでいいから知っていて、利他行動から社会を考えてみたい人へ

【冨永則子 20150223】
●「協力と罰の生物学」大槻久著、岩波科学ライブラリー

 よく分からん! 協力に関する説明には納得いったが、罰についての解説は釈然としない。より分からなくなるのが『公共財ゲーム』なるもの。実験経済学で用いられる実験の一つらしいが、人は罰を受けたくないから協力的に振る舞うのかな? そんな単純なものかなぁ? 容赦ない生存競争の中で、生き物たちはなぜ自己犠牲的になれるのかって言うけども、それって“自己犠牲”なの? 生きものは自己の宿命の元に命を全うしているだけなんじゃないのかな? いろんな事を考える学問があるんだなぁ…。

 お薦め度:★  対象:生物学を違う視点で論じてみたい人に

【萩野哲 20150223】
●「協力と罰の生物学」大槻久著、岩波科学ライブラリー

 ダーウィンの自然淘汰説は、端的に言えば自分の子をより多く残す性質が集団に広まっていくと(=適者生存)の理論である。更に、この性質をより強固にする協力システムが多くの生物に見られる。例えばアリやハチの場合、ワーカーは女王に自分の遺伝子を残す作業を代行してもらう代わりに子育てを手伝う(血縁淘汰)ことで協力している。しかし、もしここで協力しない個体(フリーライダー)が現れたら、コストをあまり払わなくて済むため、フリーライダーが残ってしまい、協力体制が破壊されてしまうであろう。実際に調べてみると、様々な生物群にフリーライダーが見つかった。それでは協力体制も破壊されているのだろうか?更には、フリーライダーの出現を防ぐ機構はないのだろうか? タイトルで察しがつく通り、ありますあります、様々な罰が。「囚人のジレンマ」、「間接互恵性」などのキーワードで、協力と罰の進化を説明する学者たちの挑戦などがコンパクトに語られており、大変タメになります。

 お薦め度:★★★  対象:誰かを罰したいとき、とっても参考になるかも…

【六車恭子 20150227】
●「協力と罰の生物学」大槻久著、岩波科学ライブラリー

 単純な初期状態から複雑性を生み出してゆく進化のプロセスは驚きに満ちている。そこには協力や罰の仕組みも作り上げられて行ったのだ。繁栄する種の裏に犯罪者あり、というわけです。アミメアリのフリーライダーは子育ての労働コストを払わないことで結局はそのコロニーを破滅させてしまい、またセイヨウマルハナバチは植物の蜜だけを吸いだし(盗蜜)、花と昆虫の共生系へのただ乗りで、在来生物の生存を脅かせている。しかしまた罰の形もしたたかに練り上げられ、相手を殺したり、追い払ったり、仲間はずれにしたり様々のようです。そしてこの協力と罰の形はわれわれ人間の世界でもゲーム理論として研究されているようです。

 お薦め度:★★  対象:生物の進化に少し興味を持ちはじめた人

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