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本の紹介「巨大津波は生態系をどう変えたか」

「巨大津波は生態系をどう変えたか 生きものたちの東日本大震災」永幡嘉之著、講談社ブルーバックス、2012年4月、ISBN978-4-06-257767-0、1000円+税


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【萩野哲 20121012】【公開用】
●「巨大津波は生態系をどう変えたか」永幡嘉之著、講談社ブルーバックス

 2011年3月11日の東北大地震の大津波は、人間が営んでいた家屋や施設を破壊したのみではなく、豊かであった東北の自然の生態系にも大きな爪痕を残した。津波の直撃もさることながら、それが残していった塩分の影響は大変大きく、地震後何か月、更にはもっと遅れてその影響が現れる。人間の活動により、元々寸断され、かろうじて残っていた貴重な自然が、他所からの補充も当てにできず、脆くも消えていく現象が今進行しているのである。復旧という名の大義により、環境アセス抜きの工事が、その消失にさらに拍車をかけているらしい。本書は、美しい写真を撮るのが本分の写真家があえて記録した、美しくない写真記録であり、その訴えるところ大である。

 お薦め度:★★★  対象:大津波後の惨状をもっと知りたい人

【岩坪幸子 20120920】
●「巨大津波は生態系をどう変えたか」永幡嘉之著、講談社ブルーバックス

 著者は写真家ながら昆虫や動植物の調査をしている人。東日本大震災以降は東北沿岸の生態系の変化を調査し、その中で見えてきたものを整理しつつ“生物多様性の保全”や“自然豊かな東北の回復”のための課題を明らかにしていく。復興が叫ばれる中、第一義的には人の暮らし優先で、元々そこにいた動植物までは思いが至らないことに仕方がないとしつつも、絶滅が危惧されるものを具体的に示している。それは自然の土地を田んぼや宅地、道路などに開発して隙間のない土地利用をしてきたことが津波の被害を大きくし、動植物への影響も大きくしたことが分かったり、復興の土木事業が優先されて環境アセスメントを免除する動きの中で“豊かな自然”の回復は困難が予想されることなどから地域絶滅を心配している。一方、津波による塩害に対して耐性を持つ動植物もいることが分かったり、特殊な条件の下で大発生する動植物がいたり新たな発見もあった。巨大津波の被害を物言わぬ動植物から見たこの本を多くの人に読んでもらいたい。

 お薦め度:★★★★  対象:自然観察や里山保全、環境問題に関心のある人

【和田岳 20121025】
●「巨大津波は生態系をどう変えたか」永幡嘉之著、講談社ブルーバックス

 もともと東北を中心に活動していた動物写真家の著者は、東日本大震災のほとんど直後から、福島県から青森県にいたる地域に入り、津波が自然をどのように変えたかを記録に残そうとした。2011年の春から夏の状況を写真を中心に報告。
 砂浜、ため池、田んぼ、松林。津波で地形が変わり、塩をかぶった。とくに塩の影響が、カエル、トンボ、水草などなど、淡水で暮らす生き物に大きな影響を及ぼしていることがよく分かる。
 湿地が開発でどんどん失われ、一部の湿地にしか希少な生物が生き残っていない現代では、その限られた場所が津波に洗われるのは、希少生物の絶滅にも直結しかねない事態となる。はたして津波をかぶった海岸線沿いの生態系は復活できるのだろうか? 続報を気にしつつ、生態系を含めた復興のためにはどうしたらいいかを考えたい。

 お薦め度:★★★  対象:津波で生態系はどんな影響を受けたのか気になる人

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