友の会読書サークルBooks

本の紹介「系統樹思考の世界」

「系統樹思考の世界 すべてはツリーとともに」三中信宏著、講談社現代新書、2006年7月、ISBN978-4-06-149849-5、780円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
 もし紹介文についてご意見などありましたら、運営責任者の一人である和田(wadat@omnh.jp)までご連絡下さい。

[トップページ][本の紹介][会合の記録]


【和田岳 20080220】【公開用】
●「系統樹思考の世界」三中信宏著、講談社現代新書

 分類学という言葉は知っていても、系統学という言葉は知らない人が多いんじゃないだろうか? 生き物を似たもの同士で仲間分けして納得するのが分類学、進化の歴史が気になって系統樹を書くのが系統学、というのが著者の分け方。
 この本では、分類学と系統学を対置しつつ、歴史を扱う科学のありようを解説。と、同時に物の由来を問題にする思考を、系統樹思考と名付け、生物学以外にも広く系統樹思考が拡がっていることを紹介してくれる。写本の系統樹、言葉の系統樹、フォントの系統樹。家系図を含め、我々の周りには系統樹が、あるいは系統樹思考にとって理解するのに適した題材が満ちあふれている。さあ、身の回りを見回して、あなたも系統樹を作れそうな物を探してみよう!

 お薦め度:★★★   対象:物の由来が気になる人

【瀧端真理子 20071029】
●「系統樹思考の世界」三中信宏著、講談社現代新書

 研究対象の性質上、典型的な自然科学が要請する基準を、もともと適用できない分野がある。例えば歴史。「歴史は科学ではない?」という疑問に対して、著者は、「科学そのものの基準を変える」、即ち、個々の分野の持つ特性や制約の中で、いかにして仮説や主張を経験的にテストできるかに主眼を置くべきだと説く。
 生物進化学を含む歴史学一般は、データと理論の「真偽」を問うのではなく、観察データのもとで、どの理論が「よりよい説明」を与えてくれるかを比較検討することで「科学の基準」を持つことができる。演繹法、帰納法に変わる第三の推論様式がこのアブダクション(データによる対立理論の相対的ランキング)である。
 本書では、系統樹の推定方法が説明されたあと、大きなサイズでの系統推定問題は、現在のコンピューター科学では天文学的な計算時間が必要で、最適解を求めるアルゴリズムがまだ開発されていないことが述べられている。また、生物体系学の三学派「進化分類学派」「分岐学派」「表形学派」のウラが書かれているところが面白い。が、この部分は、途中で終わっていて、本書の後半で「発展分岐学」の部分的な紹介が書かれている。ここは通しで読みたかった。
 そして、最後に、「分類思考」と「系統樹思考」という相矛盾する世界観について。「種」が実在するという考え方(時間的に変化する“もの”が、なお同一性を保持し続けるという本質主義)は、進化的な思考と矛盾する。著者は、分類思考は認知心理的感性であり、系統樹思考はアブダクションとしての推論であるとみなすことを提案しているようだ。

 お薦め度:★★★   対象:学問の方法論を考えたい人

[トップページ][本の紹介][会合の記録]