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本の紹介「カラスと人の巣づくり協定」

「カラスと人の巣づくり協定」後藤三千代著、築地書館、2017年6月、ISBN978-4-8067-1540-5、1600円+税


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【西本由佳 20180422】【公開用】
●「カラスと人の巣づくり協定」後藤三千代著、築地書館

 カラスが電柱に巣をつくり、それが撤去される。被害やカラスにとっての危険を考えると、それは仕方のないことだと思っていた。しかし著者はそこであきらめずに、カラスにも人にもいい方法を探す。なわばりをかまえて、そのなかで巣をつくって子育てをするカラスは、初めにつくった巣がうまくいけば、それ以上はつくらない。そういうカラスの生態をもとになわばりを調べて、安全な場所に人工巣を設ければ、カラスが巣をつくるたびに撤去してまわるいたちごっこをせずに済む。カラスの巣の構造や、巣材の地域性、同居する希少種まで調べ上げて、カラスと人との共存が模索される。

 お薦め度:★★★  対象:カラスの巣の撤去をあきらめて見ている人に
【冨永則子 20180426】
●「カラスと人の巣づくり協定」後藤三千代著、築地書館

 本書は「カラスはなぜ電柱に巣を作るのか?」という問に対して、30年に及ぶ研究から分かったカラスからの答えとも言える。要は、カラスの縄張りに電柱があるから。そして、巣材が周辺にあるから。人は自らカラスに巣場所と巣材を与えておきながら、巣を作られて困っているのだ。そして、撤去と営巣のいたちごっこをしている。なんとも人間様の勝手なことよ… カラスの巣を減らす方法は撤去ではなく、巣を載せるベースの設置であった。逆転の発想ともいえるが、人間様としてはカラス殿の一つ上を行って、鷹揚に構えたいものだ。そして、カラスの作った巣から絶滅危惧種であるアカマダラハナムグリが見つかる。アカマダラハナムグリはカラスの巣の中で繁殖していたのだ。生物多様性の不思議。
 生き物は互いに関係しあって、その生命を繋いでいる。

 お薦め度:★★★  対象:カラスって迷惑ね!なぁんて思ってる人に
【萩野哲 20180425】
●「カラスと人の巣づくり協定」後藤三千代著、築地書館

 東北地方、特に山形県では電柱にたくさんのカラスの巣がつくられて電気トラブルが発生してきた。そのたびに人はカラスの巣を撤去し、カラスは新たに巣をつくるといういたちごっこが繰り返されてきた。著者はその要因を解析し、電柱に巣をつくるカラスはハシボソガラスであること、なわばりをつくったカラスは通常年1回しか巣をつくらないが、撤去されれば何回でも巣をつくることなどを明らかにした。目的はカラスを減らすことではなく、電気トラブルを減らすことなので、あらかじめ営巣期より早い時期に人工巣を安全な場所に設置することでカラスにそちらを利用するよう促し、電気トラブルを回避できるようになった。どのようにして問題を解決してきたか、カラスを敵視するのではなく、その生態を知って共存をはかる大変興味深い内容が語られている。

 お薦め度:★★★  対象:カラスって迷惑ね!なぁんて思ってる人に
【六車恭子 20181026】
●「カラスと人の巣づくり協定」後藤三千代著、築地書館

 100年前、野口雨情の「七つのこ」で山の古巣へ「行って見てごらん」「丸い目をしたいいこだよ」と歌われた。いま、カラスは厄介者にされている。
 春先に繁殖期を迎えるカラスたちが主に巣作りをする電柱での障害が問題視されてきたのだ。著者はそのトラブルの根源を突き止めるべく、30年もの間研究を重ねられ、いわれなきカラスの功罪の真偽を突き止められた、その緻密な研鑽の記録が本書にまとめられている。今後もカラスと共生していくための撤去しなくてもいい台座の設置等新しい試みに着手している。
 また、絶滅危惧種に指定されているアカマダラハナムグリがカラスの巣から見つかり、農業廃棄物の再利用など人と共存していける筋道も解明された!あの童謡の「いいこ」であったことも明らかになったのだ。

 お薦め度:★★★★  対象:カラスを見かける人なら誰でも
【和田岳 20180411】
●「カラスと人の巣づくり協定」後藤三千代著、築地書館

 山形県では電柱にやたらとハシボソガラスが巣をつくるらしい。それを撤去しては、また巣をつくるのイタチごっこ。この問題に取り組んだのが、なぜか山形大学の虫屋さん。電柱に巣をつくるカラスの種を確かめて、巣の構造と大きさ、巣材を調べて、中から出てきたアカマダラハナムグリに喜ぶ(やはり虫屋さん)。で、電柱に営巣するカラス問題の解決策として、問題ない営巣場所を電柱に設定する試みを開始する。
 他ではあまり見られないカラスの巣情報がいろいろ出てきて面白い。カラスにあえて巣をつくらせる解決策は、もっと拡がるといいな。それにしてもどうして山形県は、東北6県で突出してカラスの電柱営巣が多いんだろう?

 お薦め度:★★★  対象:カラスが気になる人、及び甲虫好き
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