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本の紹介「カイメン すてきなスカスカ」

「カイメン すてきなスカスカ」椿玲未著、岩波科学ライブラリー、2021年8月、ISBN978-4-00-029706-6、1600円+税


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【森住奈穂 20211217】【公開用有】
●「カイメン すてきなスカスカ」椿玲未著、岩波科学ライブラリー

 カイメン=地味。それは否めない。だけどこの本を読めばカイメンに対する認識が180度変わることでしょう。わずか120ページあまりだけれど、情報がみっちり詰まっていて隅から隅まで面白い!すりつぶしても再生できる、移動もできる、生態系をがっつり支えてもいる。基本構造は水路のみというシンプルな体なのに、どうしてこんなに奥が深いのか。さらにカイメンを利用している生きものたちも登場。食べたり背負ったり、道具として使うのは人間だけではない様子。カイメンに女王とその子どもたちが数百匹で暮らす真社会性のツノテッポウエビ。オスメスのペアが2匹でひっそりカイメンの体内で暮らすカイロウドウケツエビ。知らないことばかりのカイメンワンダーランド。覗いてみない手はない!

 お薦め度:★★★★  対象:面白い本を探しているひと
【柴田可奈子 20211213】
●「カイメン すてきなスカスカ」椿玲未著、岩波科学ライブラリー

 カイメン、今までごめんなさい。まず謝る、そんなに素敵だとは思いもせず、磯では、ウミウシや蟹探しに疲れたら、ついつい指であなたを押して遊んでました。カイドウロウケツ=ヴィーナスの花かご。なんて素敵だこと。ドウケツエビにはなりたくないけど一度その花かごに身をあずけてみたい。人だけでなく多くの生物に役立っていることも驚きだった。イルカの道具にまでなるなんて素晴らしい。じわじわ移動するところも、なんかいい。干潮の磯に行ってカイメンに会いたくなりました。

 お薦め度:★★★★  対象:
【冨永則子 20211123】
●「カイメン すてきなスカスカ」椿玲未著、岩波科学ライブラリー

 カイメン=海綿は名前の通り綿のようにスカスカで、外敵がすぐ目の前に迫っていても、ただただ岩にべったりとへばりついている。意識しないとなかなか目にとまらないが、じつは潮溜まりに限らず、波打ち際から水深8000メートルを超える深海そして淡水まで水域ではどこでも見られる、ごくありふれた生き物だ…って、生き物だったの?! なんだか海のコケのように思ってた。人との関わりは紀元前まで遡るカイメン。かのダーウィンも悩ませたサンゴ礁生態系のナゾも実はカイメンが黒幕であったことが21世紀に入って解明された。本著は古くて新しいカイメンにフォーカスした日本初の一冊である。

 お薦め度:★★★  対象:磯の生き物に興味がある人に
【西村寿雄 20211211】
●「カイメン すてきなスカスカ」椿玲未著、岩波科学ライブラリー

 昔から生活になじんできたカイメン(今はポリウレタンが多い)について、その生活から生態についてたくさんの情報が書かれている。カイメンは海底表面に棲みつきプランクトンなどの餌をとる動物だ。かわったカイメンの一つにカイロウドウケツがある。籠の形をしているので中に入った海老は二度と外に出られないとか。また、1万年も生きたカイメンがいるらしい。有毒な化学物質を持つカイメンだが、タイマイはそれをも食べるとか。カイメンはスカスカの体をしているが最古の動物とも書く。いろいろ、珍しい話が多い。

 お薦め度:★★★  対象:海生生物に興味ある人
【西本由佳 20211017】
●「カイメン すてきなスカスカ」椿玲未著、岩波科学ライブラリー

 脳も心臓も胃腸もないカイメン。水を含んだりしぼったりできるスカスカの体はスポンジとして利用されてきた。そのスカスカは何かというと、水を体に巡らせて有機物をこしとって食べるための水路網だ。胃腸はないけど、細胞の一つ一つが直接有機物を取り込めるようになっている。そんな、よく見る生きものとはかけはなれた体のカイメンだが、じつは動物だ。神経系は持たないけど、濃度勾配で情報を伝達してくしゃみをしたり、進行方向に新たに細胞を配置し、後ろの細胞を回収又は廃棄することで岩の上を移動したりする。ヒトやその身近な動物たちの方法だけがすべてではないと教えてくれる貴重な生きものかもしれない。

 お薦め度:★★★  対象:スローペースで生きものを見たくなったら
【萩野哲 20211028】
●「カイメン すてきなスカスカ」椿玲未著、岩波科学ライブラリー

 カイメンは実に単純なつくりで、ほぼ襟細胞が動かす水路のようなスカスカ構造で、神経系も循環器系もなく、襟細胞(0.001mmの粒子を9割以上漉し取れる)が貪食するだけで消化器系もないので、ボディプランの制約がない。このためか、カイメンは細胞レベルまですりつぶしても死なず、再集合して元の姿に戻るし、流れに対応して形を変えることもできる。この能力を生かして移動もできる。また、多くのカイメンは骨片を持っており、これと繊維状タンパク質で体を支えている。Monorhaphis chuniという種では長さ3m、太さ1cmもの巨大な骨片を持ち、寿命1万年を超えるそうだ。繁殖様式も、芽体や芽球による無性生殖や、卵と精子による有性生殖もあり、性転換や体内/ 体外受精、種によって様々である。カイメン食のウミウシ類がカイメンの毒をため込んで防御物質に使うことにも寄与している。カイメンとその他の付着生物との付着場所をめぐる競争や、カイメンに共生する生物との関係も多様だ。サンゴ礁生態系では主にカイメンが溶存態有機物を処理していることもわかった(カイメンループ)。カイメンが動物の進化の初期に現れ、今も地味ながら侮ってはならない重要な役割を果たしていることを、著者はこの小さな本の中で伝えることに大成功しているだろ。

 お薦め度:★★★★  対象:スポンジって何者か知りたい人
【和田岳 20211028】
●「カイメン すてきなスカスカ」椿玲未著、岩波科学ライブラリー

 カイメン伝道師たる著者(ほんとはカイメン生態研究者)が。カイメン愛とともに、一見地味だけどスゴイ、カイメンのいろいろを紹介。カイメン養殖の苦労、動かないようで動くカイメン、カイメンに埋まって暮らす貝やフジツボ、カイメン礁。カイメンは面白いネタだらけ。一万歳と推定されるカイメンの骨片を見てみたい(なんと270cmもある!)。  とにかくカイメンを見る目が変わる一冊。とりあえず今度磯に行ったら、カイメンを採って、入れ物に入れて、何が出てくるか見てみよっと。また海に戻せば、機嫌良く生きていけるんやんね。

 お薦め度:★★★★  対象:生きもの好きなら
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