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本の紹介「人新世の「資本論」」

「人新世の「資本論」」斎藤幸平著、集英社新書、2020年9月、ISBN978-4-08-721135-1、1020円+税


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【中条武司 20210827】
●「人新世の「資本論」」斎藤幸平著、集英社新書

 気候変動や感染症の拡大などによって、私たち人類の生活が脅かされるような気がするこれらからの世界、唯一の解決策は「脱成長経済」だと著者は主張する。原子力発電に代表される<閉鎖された>科学技術はこれからの社会にそぐわなく、社会インフラは<コモン>(市民の共有財産)として企業活動から切り離していくべきだとする。その主張の一部は理解できるけど、その主張自体が著者の批判する略奪する先進国からの物言いで、略奪される側の視点には立っていないのではないかと感じた。

 お薦め度:★★  対象:世の中を多面的に見る必要がある人
【六車恭子 20210226】
●「人新世の「資本論」」斎藤幸平著、集英社新書

 いま、私たちはコロナ禍の渦中にあり、若い研究者の著作に出会い、瞠目する!「人新生」とは「ひと、しんせい」と読む。私たちはいま、生まれ変わらなければならない。大きな変化の兆しが示唆されているよう思えるのだ。
 彼は文明の危機に際し、「脱成長」というフレィズで戦いに挑む。これこそ新世代の理論になりえると!晩期マルクスの思索から生まれた「コモン」がキ一ワ一ドだ。地球規模で起こる疫病、大洪水、大火災、人災ともとれる絶滅していく動物たち…、人類が経済発展を遂げ、その車輪は止まることをしらず、地球を破壊しつくす岐路にあるのだ。世界の二酸化炭素排出量を減らすことは急務だろう。環境危機の今こそ晩期マルクスの資本主義批判としてじょうさした「脱成長コミュニズム」が浮上してくる!そしてその継承者がトマ・ピケティらしい。一握りの資本家たちでなく「自治管理」「共同管理」こそ本書が重視する「コモン」にとってのキ一ワードなのだ。労働と生産の変革が肝腎なのだ。
 その新たな始動がデトロイトの町で「公共の果樹」が育ち、コモンズが復権していくだろう。物質代謝の亀裂を修復する新の構想が明らかになる。使用価値経済への転換、労働時間の短縮、画一的な分業の廃止、生産過程の民主化、エッセンシャル・ワークの重視等々。西洋型ではない先住民の「ブエン・ビビ一ル(良く生きる)」という概念の普及、バルセロナの市民の生活環境をまもる「フィアレス・シティ」宣言、晩期マルクスの脱成長社会のエッセンスである「価値」から「使用価値」への転換がある。
 未来に負の遺産を残さないためにも、いま出来る一歩を歩み出さねばならないだろう。

 お薦め度:★★★★  対象:世界のありように思いをいたす方
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