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本の紹介「「池の水」抜くのは誰のため?」

「「池の水」抜くのは誰のため? 暴走する生き物愛」小坪遊著、新潮新書、2020年10月、ISBN978-4-10-610879-2、760円+税


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【萩野哲 20210615】【公開用】
●「「池の水」抜くのは誰のため?」小坪遊著、新潮新書

 外来種から在来種を守るため、よかれと思ってやったことが逆効果になることもある。某テレビ局の「池の水」を抜く番組がその一例であると紹介されている。外来種=悪という考えもおかしいし、視聴率を上げるというのも目的を誤っている。「池の水」問題に限らず、マナー違反の写真撮影や穴だらけの法律にも触れている。意識的に悪いことだとわかっていて外来種を放流したり、希少種を販売するなどの行為は論外として、本書は単純すぎる外来種問題についての理解、偏った動物愛に警鐘を鳴らしている。

 お薦め度:★★★  対象:生き物愛を正しく考えたい
【冨永則子 20210623】
●「「池の水」抜くのは誰のため?」小坪遊著、新潮新書

 昨今、テレビで「池の水ぜんぶ抜いてみた」という番組が評判だ。憎っくき外来種を根絶するのを目的としているようだが果たして方法として正しいのか? 外来種は全て悪なのか? そもそも外来種とは? 数が減ってきたからと他所から持ち込んで放流したり、数を維持するためと言って餌となる生き物を放したり、一見、在来の生き物を保護しているように見える行為が実はたいへんな環境破壊を招いていたりする。無知による善ほど厄介なものはない。何を、何ために保護維持するのか、善意だけではなく広く知ろうとすることの大切さ、情報リテラシーの重要性が説かれている。

 お薦め度:★★★  対象:自然保護活動などに関わろうとする人に
【西本由佳 20210621】
●「「池の水」抜くのは誰のため?」小坪遊著、新潮新書

 生きものをかわいがりましょう、命を大切にしましょう、という言葉に反対する人はあまりいない。だけど、そればかり言ってはいられないことも世の中にはある。環境教育として一見のどかに見えるウミガメのこどもの放流は、止め置かれて弱らせてから海に放すという問題を含んでいる。キタキツネへのえさやリは、人との適切な距離を詰めすぎて、キタキツネにとっても人にとってもリスクを作り出している。ノネコを駆除するのは残酷だと言うのは簡単だけど、駆除に至るまでに考えつくした現場の苦渋の結論を部外者が一方的に非難するという問題をよく考える必要がある。一方で、タンチョウの適切な給餌への模索、放生会での放し方の工夫、生きものへの接し方のマナーの普及など、生きものへの負担を減らしつつ、人の生きものへの思いも大切にする地道な活動も行われてきている。何が本当に生きもののためになるのか、よく考える必要があると知ることができた。

 お薦め度:★★★  対象:生きものが好きで大切にしたいと思うなら
【西村寿雄 20210621】
●「「池の水」抜くのは誰のため?」小坪遊著、新潮新書

 ある市議が、九州の長崎県からカブトムシを千葉の森に放したことから、話は展開する。善意は理にかなったことか、本文で問いかけていく。同様の善意は各地で見られる。遠くの鯉を河川に放流するとか、倒れて動かなくなった小鳥を持ち帰るとか、外来種駆除のため池の水を全部抜くとかに問題を投げかける。その他、池や沼に外来種を放して売りにする業者、対象生物に極端に近づく写真家、野生生物を売りにする業者等々、人間が安易に動物を移動させることへの警鐘である。同時に希少動物を売り買いする人間の欲が、生物の生態系を大きくかく乱していることなど、生態系保護の立場で紹介されている。

 お薦め度:★★★  対象:野生動物保護や希少生物販売に関わる人、動物写真家など
【和田岳 20210625】
●「「池の水」抜くのは誰のため?」小坪遊著、新潮新書

 虫や魚を放し、樹を植え、動物にエサをあげる。どれも良いことのように思える。しかし生態系を考えた時、そこにはしばしば大きな問題がある。人気テレビ番組で池の水を抜いてるのは良いことなんだろうか?
 良かれと思って、生き物が好きだから。そうした善意や生き物愛に基づく行動が、引き起こす問題が次々と指摘される。自然や生き物とのつき合い方を考え直すための一冊。
 著者は、新聞記者としては珍しく、自然や生態学のことが判っている方なので、内容は目配りも聞いていて、しっかりしている。ただ、新聞記者だからだろうか、文春砲やネット取引大手4社など実名付きで、実名隠していても対象が判る形で批判している。強気だ。

 お薦め度:★★★  対象:好きな生き物がいる人、自然に関心のある人
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