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本の紹介「フィンチの嘴」

「フィンチの嘴 ガラパゴスで起きている種の変貌」ジョナサン・ワイナー著、ハヤカワ文庫、2001年11月、ISBN978-4-15-050260-7、940円+税


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【西本由佳 20160411】【公開用】
●「フィンチの嘴」ジョナサン・ワイナー著、ハヤカワ文庫

 話はガラパゴス諸島の小さな島から始まる。そこで研究者たちは、20年にわたって、数種のフィンチたちに足環をつけ、くちばしの大きさを測り、種子の食べられ方や堅さや豊凶を調べてきた。そしてわかったのは、ダーウィンが唱えた自然選択が今現在そこで進行しているということだ。天候が厳しくなるとき、その環境下で有利なくちばしをもったフィンチが生き残り、数を増やす。影響する天候によって、何が有利になるかは異なり、くちばしのかたちもゆれる。それは進化という言葉で想像する、化石のちがいといった時間スケールでなく、数年単位で起きている。読んでいて、ダーウィンの進化論の世界が目の前で展開している、というわくわく感とともに、選択を外れた多くの個体が死んでいくことに、自然の厳しさを感じた。今その辺にいるスズメがスズメの姿をしているのに、気が遠くなるほどたくさんの偶然が積み重なっているのだなと思った。

 お薦め度:★★★★  対象:生きものがなぜそれぞれちがった姿をしているかが気になる人
【萩野哲 20160411】
●「フィンチの嘴」ジョナサン・ワイナー著、ハヤカワ文庫

 進化は起こっているが、それには大変な時間がかかり、とても人間の一生で見ることはできない。と、ダーウィンも考え、現代の多くの人も考えているに違いない。しかし、極めて短い時間で自然選択が観察できる事例が、何とガラパゴスに生息するダーウィンフィンチから、グラント夫妻らの20年を超える詳細な研究から見つかってきた。島に生息する全個体を観察対象とし、嘴(だけではないが)のサイズを測定したところ、乾燥が続き利用できる餌が激減する劣悪な年が続くと、嘴のより大きな個体が生き残り、生まれた子供は遺伝的により大きな嘴を持つ。ところが、エルニーニョで雨が多くなり潤沢に餌が得られる年が続くと逆の現象が観察される。いずれの場合も、わずか0.5mmの嘴の微妙な形態差が年々の鳥の生死を分けているのだ。つまり、進化の速度は思いのほか速いものの、揺れ戻しがあるため、詳細な観察がないと、ほとんど何も起こっていないように認識されていたのだ。このような現象はダーウィンフィンチに限らず、多くの生物で起こっている。いよいよ進化が理論ではなく、実証できる時代になってきた。

 お薦め度:★★★★  対象:進化をより深く考えたい人
【六車恭子 20160624】
●「フィンチの嘴」ジョナサン・ワイナー著、ハヤカワ文庫

 ダ−ウィンが「自然界における自然選択」を提唱し、その実証例は具体的に示すことなく終わったが、ここガラパゴス諸島のダフネ島でグラント夫妻が20年もの歳月をかけて観察した記録は進化論を裏付ける優れた研究の成果であろう。細心の注意で他からはなにも持ち込まない(靴に紛れる種子一粒!)覚悟で、島のフィンチを個体識別し、家系図を作る。
 フィンチの食物となる種子の種類や量、鳥の生活条件を丹念に追跡してゆき、大干ばつやエルニーニョなどに遭遇したフィンチがたどった経過の詳細はダ−ウィンの問への優れた返礼でもあろうか。本書はストイックな研究者の粘り強い努力が自然の佇まいを解き明かす奇蹟を垣間見せてくれる!

 お薦め度:★★★★  対象:小さな積み重ねに興味のある人
【和田岳 20160415】
●「フィンチの嘴」ジョナサン・ワイナー著、ハヤカワ文庫

 ガラパゴス諸島にダーウィンフィンチという鳥がいる。ということは、多くの人が知ってたりします。しかし、ダーウィンはガラパゴスに行った時、ダーウィンフィンチにはほとんど注目しませんでした。この鳥を真に有名にしたのは(少なくとも科学の世界では)、この本に紹介されているグラント夫妻を中心とする調査チームなのです。
 グラント夫妻チームの調査は、ガラパゴス諸島の中のダフネ島という小さな島で行われたました。島のすべてのダーウィンフィンチに足環を付けて、個体識別した上で、その一生を徹底的に追いかけるというもの。それを20年以上続ける中で、数年程度の間に自然選択はフィンチの嘴の大きさを変えてしまうってことを明らかにしたのでした。
 この発見は、自然選択は長い時間をかけてゆっくりと効果を現すという、従来多くの人が考えていた自然選択とはまったく異なり、科学の世界に衝撃が走りました。そんな研究の成果を、研究者やダーウィンのエピソードをまじえ、難しい数式や図表抜きに紹介した一冊。とくに第一部は絶対にお薦めです。

 お薦め度:★★★★  対象:自然選択の真の姿を知りたい人
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