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本の紹介「鳥獣害」

「鳥獣害 動物たちと、どう向きあうか」祖田修著、岩波新書、2016年8月、ISBN978-4-00-431618-3、820円+税


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【西本由佳 20170417】
●「鳥獣害」祖田修著、岩波新書

 農村部で鳥獣害の被害がひどいことになって、それが理由で農業をやめてしまう人がいるなか、著者は、人が生きものたちにどう向き合うかを考える。西洋の人間中心主義に対する反転である過度の自然保護の一方、おもに東洋における人間以外の生きものへの感謝と供養といった思想がある。しかし、食生活の近代化や都市化によって、食糧とする生きものと人との距離がひらき、目の前にあるいわば切り身の食物と、生身の生きものとのつながりが見えにくくなっている。人間は生きもののひとつにすぎないが、人間が圧倒的な力を持つ現状では、人間が他の生きものに対して「怖れながらの管理」をすることが必要かと結んでいる。

 お薦め度:★★★  対象:獣害と直接向き合っていない都市部の人に
【森住奈穂 20170420】
●「鳥獣害」祖田修著、岩波新書

 農作物をめぐる人間と動物の闘いは、農業の発生とともに始まる。高度経済成長期以降、山は燃料や建築資材の供給源ではなくなり、農作物も輸入に頼るようになる。里の人口は減り続け、奥山に潜んでいた獣たちが、こんにちは〜こんにちは〜と畑へ顔を出すのが今や当たり前。シカもイノシシも、この20年間に生息個体数は3〜5倍とのことだ。私たちの生活様式が急激に変化したことで、現代の鳥獣害はある。北海道津別町の総工費31億円余り、総延長410キロメートルに及ぶ農地と住空間をすっぽり囲んでいるシカ柵の例にはびっくりしてしまったが、この、”都会に暮らすとピンとこない”現状が問題なのだ。これから先の20年はどうなるのか、私たちはどのような暮らし方を選択するのか、野生生物との関わり方はそんなところにもつながっている。

 お薦め度:★★★  対象:獣たちに畑を荒らされたことのないひと
【和田岳 20170421】
●「鳥獣害」祖田修著、岩波新書

 著者はもともと農業経済の研究者で、大学を退官して、農作業を始めたところ獣害に遭遇したらしい。で、人と動物の関係について考えはじめ、こんな本を書いてみました。って感じ。
 現在の山間部でのシカやイノシシなどによる獣害の現状を紹介する。一方で、ディープ・エコロジーの紹介や、西洋と東洋の動物観の違いがでてきて、話は獣害から逸れまくって、人と動物の関係の在り方に展開。で、最後は、増えたシカは食べたらいいね、っていう知ってる話で終了。農業経済という少し違う畑からの斬新な提案はなかった。

 お薦め度:★★★  対象:西洋と東洋の動物観の違いにからめて、人と大型哺乳類の関係を考えてみたい人
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