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本の紹介「文明が育てた植物たち」

「文明が育てた植物たち」岩槻邦男著、東京大学出版会、4-13-063312-0、2400円+税


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【瀧端真理子 20020716】
●「文明が育てた植物たち」岩槻邦男著、東京大学出版会

 シダ植物の無融合生殖を研究してきた著者が、行き過ぎた自然破壊に警鐘を鳴らしている本。また著者は、生物多様性の解明のためには、解析的研究の充実とともに、これらの研究を統合的な視点から集成するのが有効だ、と説く。
 アルプスのお花畑も放牧による自然破壊の産物である例などを挙げ、新石器時代になって人口の増加を支えられなくなったヒトが、森林を伐開し農地や牧場を作るようになったことを分かりやすく紹介。本来の焼畑は順に移動して何年か後には元の場所に戻ってきていたのに、道路の出来た現在では焼き跡を簒奪し尽くすと放棄して終わってしまうことなども紹介されている。
 このような自然保護にまつわる話題が分かりやすいのに対して、筆者の専門分野であるシダ類の無融合生殖の話は難解。有性生殖の高等動植物は、100万年単位の長い時間をかけて新しい種を形成することによって、地球環境の変動に対応してきたが、新石器時代以降の地球表面の人為的破壊は、コストの高い有性生殖を放棄した無融合生殖の植物を繁茂させてきた、と説明されている。難解ながらも、一見地味に見えるシダ植物の研究が、生物多様性の体系的理解に貢献していることを教えてくれ、分かりにくい部分を勉強しようという気にさせてくれる1冊だ。

 お薦め度:★★  対象:中級かつ我慢強い人

【寺島久雄 20020511】
●「文明が育てた植物たち」岩槻邦男著、東京大学出版会

 新石器時代以来、地球表面は人為的開発によって、徹底的に変貌させられた。私たちの周辺にある自然とよばれるものは、人の営為の強い圧迫を受けた、いうなれば疑似自然である。著者は、この現況をふまえて、明日の自然についての提言を繰り返してきた。
 一方で、ヒトが育てた文明は、多くの植物に有性生殖から無融合生殖へという進化を促してきたらしい。実際、日本産シダ植物の15%もが、無融合生殖種となっている。この百年単位で発生する無融合生殖は、生き残るために必要な遺伝子の多様性の常備を放棄した袋小路的な進化であると著者は論じる。これは、自然と生物・ヒトとの間で起きている危険の兆候と実感することができる。
 自然への回帰とは、わずかに残る自然を訪れることではない。身の回りにある野性と語り合うことで成立する。自然を見、自然に生き、自然と対話できたヒトが自然に教えられて、自然とヒトとの調和ある共存の道を歩む。著者はヒトと共存する地球環境の姿を考えさせてくれる。


【六車恭子 20020713】
●「文明が育てた植物たち」岩槻邦男著、東京大学出版会

 著者はシダ植物の第一人者である。その研究分野の日本のシダ植物の15%が無融合生殖種として繁栄を極めているらしい。なぜ30数臆年の進化の歴史で優れたものとして検証されてきた有性生殖を捨て一回起源の種分化を選ばねばならなかったのか?
 そこには新石器時代以来、ヒトの文明に導かれて種形成を行ってきた野生のやむを得ない細胞レベルでの選択があったようだ。一方では絶滅を招き、他方では病んでいる生物多様性を生む袋小路のような滅びへの種分化。生物多様性の土壌が危機的現状であることに変わりはない。無融合生殖種として上げられている秋の風物詩のヒガンバナ、シャガ、ヤブカンゾウ、ヤブマオ、ヒメジオン、ドクダミ、etc.・・・、私たちの周りになんと満ち溢れていることか。
 生物多様性の研究には分析的研究手法だけでなくそれを集成し、統合し、透かしみる視点も必要だと説く。この「ナチュラルヒストリー」の視点は人類の明日の繁栄に向けての鍵を握る分野となりうるだろう。

【和田 岳 20020621】
●「文明が育てた植物たち」岩槻邦男著、東京大学出版会

 人の影響を強く受けた環境には、有性生殖を放棄して、無性的に繁殖する植物が多い。この事実を紹介しつつ、その原因をほとんど議論することなく、話は自然と人との共生に向かいます。むしろ多くの植物の絶滅を憂う著者の自然観にふれるための本でしょう。
 セイヨウタンポポは知っていましたが、ベニシダ、ヤブソテツ、オオバノイノモトソウ、ヒガンバナ、シャガ、ニガナ、ドクダミ、ヒメジオン。身近によくみる植物に、こんなに有性生殖をしない種がいるとは知りませんでした。

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